~OSS版Dify+大学独自の管理アプリケーションで、自由な活用とガバナンスを両立~
インタビュイー:九州大学 島田先生(データ駆動イノベーション推進本部 ラーニングアナリティクス部門長)
インタビュアー:Fusic 松延(パブリックセクター担当)
プロジェクト担当:Fusic 砂本(PM)、森(エンジニア)、大宮(エンジニア)、小田部(デザイナー)
事例のポイント
導入前の課題
- 教員・学生が ChatGPTやCopilotなどを個人個人でバラバラに利用しており、大学として統一的な管理ができていなかった
- ツールやプランの違いで学生間に回答品質のばらつきが生じており、教育の公平性の担保や授業でのAI利用の統制が難しい状況だった
- 複数の Dify(※)環境が部局ごとに独立して運用され、LLM(※)利用料や利用ルールの管理が煩雑だった
当社の対応
- OSS(※)版Dify+大学独自の管理アプリケーションで、ツールやプランに依存しない統一的な生成AI活用環境を構築
- 会話履歴やナレッジ登録状況など、学内の利用状況を管理アプリケーションで可視化
- コストの継続的な把握・管理のために、APIごとに利用上限を設定し超過前にアラートが届く仕組みを設計
導入後の成果
- ガバナンスを整えたことで全学規模での展開が可能になり、学内全体の利用状況・登録ナレッジを把握・管理できる仕組みを構築
- 統一された利用環境の学内共有により、先生方が目的に合わせたアプリを作って授業で活用できる土台を確立
- TA(※)の代わりの生成AIチャットボットが機能し、学生からの質問数が大幅に減少
ChatGPTの登場から数年、今や9割を超える学生が生成AIを使う時代になりました。各自がバラバラに使い始めるなか、「大学として統一的な環境をどう整えるか」という課題に正面から向き合ってきたのが九州大学様です。OSS版DifyをベースにFusicが構築した大学独自の管理アプリケーションにより、コスト管理とガバナンスを両立しながら、プログラムを書かない先生でも自分でAIアプリをつくれる環境を実現しています。
※Dify(ディフィ):ノーコードでチャットボットやAIワークフローを構築できるオープンソースの開発プラットフォーム ※LLM:大規模言語モデル。生成AIの中核技術 ※OSS:ソースコードが公開され、自社サーバーでの運用(セルフホスト)も可能なソフトウェア ※TA(ティーチング・アシスタント):大学や大学院で、教授や講師の授業・実験・実習の準備や運営を補助する学生 |
生成AI活用に踏み出した背景
利用率の急拡大と、バラバラだった利用実態
松延:
生成AIの学内活用を検討し始めた背景を教えてください。
島田先生:
ChatGPTが登場した当初、学生の利用率はそれほど高くありませんでした。それが翌年度ごろから急速に変わり、今では9割を超えるほどに。問題は利用状況が個人個人でバラバラだったことです。授業で使うとなると、有料プランと無料プランの学生で回答品質に差が出てしまう。かといって、生成AIに過度に依存することへの懸念も拭えない。禁止でも放置でもなく、教育の文脈にどう組み込むか——その問いと向き合いながら、大学として統一的な環境を整えていこうという機運が高まっていきました。
「禁止」ではなく「ガイドライン」で
松延:
利用にあたって、統制面での課題感はありましたか。
島田先生:
当初から禁止はせず、教育担当理事が発出したガイドラインのもとで運用してきました。「生成AIに全部頼って教育本来の目的が変わるのはおかしい」「機密情報や個人情報には気をつける」——その根底にある考え方は今も変わっていません。今回のDify環境でも同様の注意喚起を利用者に促しています。約束事さえ守ってもらえれば、あとは自由に作って使ってもらう。そのバランスを大切にしています。
Fusicにご相談いただいたきっかけ
長年の信頼が、新たなプロジェクトを生んだ
松延:
数ある選択肢の中で、Fusicにご相談いただいた決め手は何だったのでしょうか。
島田先生:
以前、研究室で別契約で使っていた仕組みが、Fusicさんのサービスとして展開されたとき「これはすごい」と感銘を受け、ずっと使い続けていました。同じような相談なら、きっと力になってもらえるはずだ、と。ちょうど学生時代の後輩がFusicにいて、福岡のイベントで再会した際に相談を持ちかけたのもきっかけです。
「すっと提案に入れた」スタートのスピード感
松延:
実際にご相談いただいた印象はいかがでしたか。
島田先生:
やりたいことを事前に共有していたこともあり、すっと提案に入れてスタートがとても早かったです。初めての会社だと目線合わせだけで何ヶ月もかかることもある。過去の取引経験とFusicの豊富な実績があったからこそだと思います。
OSS版Dify+大学独自の管理アプリケーションという構成
ノーコードで“つくれる”環境。RAGとの相性
松延:
既製のSaaS型ツールではなく、OSS版Dify+大学独自の管理アプリケーションという構成を選ばれた理由はなんでしょうか。
島田先生:
当時、ノーコードのブロックベースで作れるツールがそこまで多くなかったんです。今でこそAWSやMicrosoftの環境でも似たようなことができますが、当時のDifyはチャットボットやワークフローをあれだけ簡単な操作で作れて、特にRAG (※) が流行っていた頃でしたので、ナレッジとの接続がいとも簡単にできるところに感動しました。プログラムを書かない先生でも授業支援アプリを自分で作れる可能性を感じて、「これでいこう」と決めたのが始まりです。 コスト面も重要でした。クラウド型のSaaSはユーザー数に応じた課金になるので、数万人規模の大学では高額になってしまいます。Difyのセルフホスト版であれば、トークン数に依存する料金形態に抑えられる。これも選定理由の一つです。
| ※RAG:社内資料などの知識を検索し、その内容に基づいてAIが回答する仕組み |
松延:
学内での具体的な活用方法と、その後の変化を教えていただけますか。
島田先生:
TA の代わりに生成AI を使うチャットボットを試してきた授業では、学生からの質問数が激減したという話があります。RAGがうまく機能しているおかげで授業資料に基づいた回答が返ってくるため、授業で扱っていない数式や内容が出てきてしまうといったことも防げています。
Difyの自由さを、管理アプリケーションで「見える化」
松延:
Fusicが開発した管理アプリケーションは、どのように役立っていますか。
島田先生:
管理アプリケーションでもともと見たかったのは、「各先生がどんなナレッジを登録しているか」でした。どんなワークフローが効果的かは接続するナレッジにかかっている、そのヒントを大学全体から集めていく場所として活かしたいと考えています。タグ付けによるアプリの管理機能もアプリの目的や用途がひと目で絞り込めると好評です。
大宮:
管理アプリケーションは「Difyではできないことをやる」のが基本方針です。タグ付けは後から追加した機能ですが、実際に便利に使っていただけていると聞いてよかったです。
砂本:
管理者機能の責任分解点はかなり意識して設計しました。管理者側の操作がDify本体の挙動に影響しないよう両者を明確に切り分けています。「疎結合だけどきちんと連携している」——その設計思想をこれからも大切にしていきたいと思っています。
今後の展望
環境の統合と、全学への展開
島田先生:
今年度はまず事例を少しずつ積み上げていく段階です。学内には別々に運用されてきたDify環境が複数あり、費用やAPIキーの管理が分散している状況でした。これらを今回新たに構築した環境に統合し、運用と請求を一本化することで、管理面でもコスト面でもずっとシンプルになると考えています。今後は教育担当理事の新しい利用指針のもと、注意点をケアしながら、授業効果を高めるアプリを先生方が自由に作っていける状態を目指します。蓄積されるログは、本学が長く取り組んできたラーニングアナリティクスとも相性が良く、今後の活用が楽しみです。
Upstage「Document Parse」との連携
大宮:
DifyにUpstageのDocument Parseプラグインを組み込み、Dify内でOCRが使えるようにしました。表構造を含む資料もきれいに読み取れることが特徴ですが、学校現場でのニーズはいかがでしょうか?
島田先生:
履修相談などでは、表を含む資料を正確にナレッジ化したいという要望が強い。単純なAIでは表がうまく扱えないので、ここは大きな強みです。
コストの「見える化」という共通課題
島田先生:
利用が増えるほど気になるのがコストです。今は固定額で契約していますが、月額か年間かで上限の決め方は変わります。「どのモデルが、誰に、どれだけ使われているか」を月次で把握できると安心ですね。高性能なモデルが多用されると費用は一気に膨らみますから。
大宮:
APIごとに利用上限を設定し、超過しそうになると通知が届く仕組みにしているので、コストはきちんとウォッチできています。 また、モデル別の利用状況の可視化も検討しています。
砂本:
多くの学生に使っていただくことを見越した時に、そもそもユーザー数ではなくトークン量に応じた料金にできるのは、OSS版をセルフホストで選んだメリットのひとつです。利用状況をSlackに通知したり、ゆくゆくは管理アプリケーションに載せたりと、できることはまだまだあります。
まとめ|インタビューを終えて
今回のプロジェクトでは、「自由に使える」と「きちんと統制する」を両立させる難しさに、技術と運用・契約の両面から応えてきました。
- OSS版Dify+大学独自の管理アプリケーションで、誰でも“つくれる”環境と、全体を俯瞰できる管理を両立
- LLM利用料・保守・構築をまとめた契約で、大学特有の調達・請求の課題を解消
- ローカルLLMやMCP連携など、大学の多様なニーズに応えられる拡張性を確保
生成AIの活用は「技術導入」で終わりません。組織の文化や運用実態に寄り添い、契約・請求まで含めて伴走することにこそ価値がある。改めてそう感じるインタビューとなりました。Fusicはこれからも、お客さまの事業と現場に寄り添うパートナーとして伴走してまいります。
生成AI活用"導入して終わり"にしない仕組みを、一緒につくりませんか?
生成AIを学内で活用したいけれど、「自由に使わせたいが、統制もしたい。」そんなジレンマを抱える大学・研究機関は少なくありません。いざ全学展開を検討すると、技術面だけでなく、予算・契約・調達といった思わぬところでつまずくケースも多くあります。Fusicにはパブリックセクター専任のメンバーが在籍しているため、技術導入から実運用、調達・請求の進め方まで一貫してご相談いただけます。
- 生成AIを組織で活用したいが、何から始めればよいかわからない
- 統制やセキュリティを確保しつつ、現場で使える環境を整えたい
- 複数のLLMサービスの請求を一本化したい
- PoCから本番環境への移行を見据えた設計をしたい
ひとつでも当てはまるなら、今の進め方を見直すタイミングかもしれません。まずは現状の課題感だけでも、気軽にお聞かせください。
関連リンク
- Fusic 開発事例:https://fusic.co.jp/works/79
- Fusic サービス紹介:AI・機械学習 https://fusic.co.jp/service/ai
- Fusic クラウドインフラ(AWS)https://fusic.co.jp/service/aws