福岡県庁総務部人事課
https://www.pref.fukuoka.lg.jp/
開発事例
インタビュイー:
水ノ江 秀子 様
松田 啓佑 様
プロジェクト開始当時の状況や課題感
Fusic野上)今回のプロジェクトでは、福岡県庁の本庁に勤務されている職員約3,000名が、庁舎入口にある端末でQRコード(*1)をスキャンし、出勤と退勤の打刻を行うシステムを開発させていただきました。
水ノ江様)地方公務員における勤怠管理が必要とされるようになったのは、2019年4月に改正された『働き方改革関連法』がきっかけです。
地方公共団体における時間外勤務の上限規制が導入され、職員の健康管理が求められるようになりました。職員の心身の健康を保つためには、長時間労働を是正することが必要です。そのために、地方公共団体は厚生労働省が定めた『労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン』の規定に基づき、客観的な方法で職員の勤務時間を把握して、職員の健康保持に努めることとされています。
2019年当時、福岡県では、職員に配布されているPCのログオフの時間を取得することで勤務時間を把握していました。しかし、システムの仕様上、ログオフの時間を確認できるのは1週間程度のタイムラグがあり、リアルタイムで勤務時間を把握したいという要望がありました。
他県ではICカードを利用している事例がありますが、カードの発行や紛失時の再発行など、カード管理にかかるコストを踏まえると、導入が難しいと判断しました。ほかにもマイナンバーカードの活用なども案に挙がりましたが、個人情報保護や開発コストの観点から導入は見送りました。
私が人事課に赴任してきた2023年4月、ちょうどこの課題に取り組む必要があり、システムには詳しくないながらも「職員番号をQRコードにして打刻ができないか」というアイデアが浮かびました。
しかし、どのような形で実現が可能なのかわからなかったため、プロポーザル方式で事業者選定を行い、結果としてFusicさんと一緒にこのプロジェクトを進めることとなりました。以前からFusicさんのことは知っており、確かな技術力をお持ちであること、福岡を拠点に日本全国幅広く事業を展開されている企業であることはとても好印象で心強く感じました。
Fusic野上)ありがとうございます。最初に私がお話を伺った際に、執務室ではなく庁舎の入口で打刻できるようにしたいというご要望があったことも覚えています。
水ノ江様)そうですね。県職員は頑張りすぎてしまう人も多く、執務室で退勤処理をしてそのまま仕事をしてしまうという状況を避けるために、庁舎に来た時と庁舎から帰る時を可能な限り実態に沿った時間で取得したいと思いました。
(*1) QRコードは株式会社デンソーウェーブの登録商標です。
開発したシステムについて
Fusic賀来)システムの機能は大きく分けて3つあります。1つ目は、タブレットを庁舎入口に複数台設置し、職員の皆さまにQRコードを出勤時と退勤時にスキャンしてもらい、出退勤時刻を取得すること。タブレットにはソラコム社のSIMカードを利用し、公衆Wi-Fi以外のネットワーク環境がない庁舎入口においても回線を安価に確保することができました。
2つ目の機能は、勤務時間のデータを、人事課の皆さまや庁舎の管理を行う監視職員が確認できることです。そして3つ目の機能は、データを県庁で利用している庶務事務システムに定期的に連携することです。
松田様)システムが入る前は、監視職員は手書きの帳簿を見ながら土日に出勤している職員の確認をせざるを得なかったんです。とてもアナログでした。
Fusic山路)そうでしたね。監視室をはじめ、現場をたくさん視察したことも覚えています。朝の出勤時はどのような人の流れがあるのか、どのような画面表示なら使いやすいのか、既存システムとの連携はどういった形が良いのかなど、実際に使われるシーンを想像しながら開発を進めました。
Fusic青木)県庁様ではシステムをオンプレのサーバで運用されていることがほとんどですが、今回の勤怠管理システムはクラウド(AWS)を採用いただきました。サーバレスアーキテクチャの特徴を活かし、朝・夕方とそれ以外の時間のアクセスの偏りに応じた処理、コストや運用負荷の削減が実現できたかと思います。ご所感はいかがですか?
水ノ江様)やはりオンプレサーバを資産とし、それを使いたいという考えもあるようですが、私としては自由度や拡張性の高いクラウドを利用することのメリットも十分あると考えています。「クラウド・バイ・デフォルト原則(*2)」と言われるように、自治体において今後クラウドの活用の潮流がさらに広がっていくと思います。
(*2) 『政府情報システムにおけるクラウドサービスの利用に係る基本方針』に記載されている、政府が利用する情報システムはクラウドサービスの利用を第一候補として検討する方針のこと。
開発時に印象に残っていること
水ノ江様)開発時、Fusicさんに対して印象に残っているのは、親身になってくださる姿勢とスピード感です。私たちは人事課なので、システムの知見がないのですが、質問したことにひとつひとつ真摯にご回答いただきとてもありがたかったです。その親身さが安心感につながりました。また、既存の庶務事務システムとの連携も必要だったのですが、そちらのベンダーさんとの調整やコミュニケーションも丁寧に行っていただきました。
スピード感については、納期の上でかなり無理を言ってしまいましたが、短納期で対応していただき本当に助かりました。県庁全体を巻き込むシステムであるため、関係部署や職員団体との調整にかなり時間を費やしてしまい、開発自体にあてられた時間が短くなってしまいました。
Fusicさんと契約をして開発を開始できたのは9月。10月下旬から試運用を行い、12月末にご納品いただきました。Fusicさんが、システムをシンプルな構成にし、仕様のすり合わせをスムーズに行ってくださったからこそ、4ヶ月というスピード実装が可能だったのだと思います。
Fusic賀来)スピード感については、もちろんFusic側も意識していましたが、県庁様のご対応にも非常に助けられました。例えば、タブレットなどのデバイスのご準備は県庁様にご担当いただいたのですが、こちらが驚くほどのスピードで手配いただきました。「デバイスがもうあるんだから開発を急がなければ!」と励まされる出来事でした。
松田様)Fusicさんとは、タスク管理ツールや電話やメールなど、適宜ツールを選びながら密にコミュニケーションを取らせてもらいました。私が開発時に印象に残っているのは、機能の追加開発をお願いしたときですね。
夜間に監視室を通らず打刻をしてしまうことや不正な打刻を防ぐために、時間や曜日ごとに利用できるタブレットを制御する機能をお願いしたのですが、この機能は試運用に入ってから必要だと気づきました。こんなタイミングで、複雑な処理が必要な機能を追加でお願いしていいのだろうかと心配しましたが、スピーディに実現いただいて驚きました。
Fusic山路)主に松田様と賀来でコミュニケーションをとりながら、賀来が得た情報をメンバーに日々共有してもらい、県庁様の要望や見ている景色をできるだけチーム全員が理解することを意識して開発に取り組みました。プロジェクトチームでは、私を中心に毎日朝会を行い、メンバーの認識を合わせながら、着実に前に進めるようにしました。
システム導入の効果、運用について
水ノ江様)運用がスタートしてから数ヶ月が経ちましたが、所属長が職員の勤務時間をより正確に把握できるようになり、サービス残業の防止に繋がっています。低コストでの開発でスピーディに導入でき、費用対効果は抜群にあると思います。
地方公共団体における勤怠管理は喫緊の課題です。知事、副知事もこのシステム導入に非常に関心が高く、「取得した勤怠データを元に職員の勤務実態をしっかりと分析して、本県職員の働き方改革につなげていくように」との指示を受けています。
また、読み込み用のデバイスとしてタブレットを使うというのはFusicさんにご提案いただいたのですが、これもとてもよかったです。本庁舎勤務の職員だけでも3,000人いるため、ITリテラシーにもバラつきがあり、新しいシステムの導入時にはレクチャーが管理側の負担になりがちです。しかし、今回のシステムは、見慣れたタブレットにQRコードをかざすだけなので、簡単なレクチャーで操作方法がすぐに伝わりました。
松田様)取得した勤怠データは、職員が普段から触れている庶務事務システムに連携されるため、都度上司や本人が確認できるようになっています。また、今回開発したシステムの管理画面でも一覧で確認可能です。勤務状況をリアルタイムに意識できることは過度な時間外勤務を防止するために効果的だと思います。また、庁舎入口で来た時と帰る時の時刻を取得できていることは、職員の働き方をできる限り実態に沿ったデータで見守るために必須であると感じています。
今後の展望
水ノ江様)今回のプロジェクトでは、本庁舎勤務のおよそ3,000名のみを対象としました。今後は、まずは本庁舎での運用状況を検証し、それを踏まえて出先庁舎への導入に向けて検討を進めていきたいと考えています。そこまで拡大すると、対象人数はおよそ8,000名になります。大規模ですが、クラウド技術をはじめとし、拡張がしやすいシステムとして構築いただきましたので、またFusicさんと一緒にプロジェクトを進めていければと思っています。