新川電機株式会社
開発事例:
生成AIを活用した「工場の機器保全スマートダッシュボード」構築PoC
インタビュイー:
伊藤 祐治 様
西岡 厚佑 様
伊藤 誠 様
秋山 弘樹 様
現場の課題感、スマートダッシュボードとは
西岡 様)私たち新川電機株式会社は、発電所やガス工場といった製造業のお客様に対してソリューションを提供している企業です。例えば、機械の振動データを解析し、設備の異常を検知するシステムを提供しています。
しかし、お客様とのコミュニケーションを通じて、そもそもお客様の社内にある膨大な情報や技術の有効活用ができていないという課題が浮き彫りになりました。製造現場には、膨大な情報があります。社内ドキュメントやマニュアル、ベテランのオペレーターの知見、そして当社が提供するような異常検知のデータといったものです。これらの情報がベテランから若手に伝承されず、社内で有効活用されていない課題が生じています。そのような状況では、当社が提供するデータも十分に活用されません。そのため、今回のプロジェクトでは、そういった情報の有効活用をサポートするための「スマートダッシュボード」を開発しようと考えました。お客様の社内にある情報を連携させ、システムの画面上で可視化し、すぐに引き出せるようにすることを目指しています。
伊藤 誠 様)私たちのお客様である発電所やガス工場は、何より安全な操業が重要です。設備の小さな故障が重大な事故に繋がりかねません。安全な操業のために、現場にはオペレーターの方々がいらっしゃいます。オペレーターは、機械の状況やコンディション、生産量に応じて機械をどのように動かせば一番効率良く利用することができるか、少ないエネルギーで最大限の生産量を達成できるか等を、大量のデータをもとに日々判断しています。また、異常が発生した際のマニュアルは基本的に紙で準備されており、何十冊ものファイルの中から探し出すというのは非常に非効率であり、緊急事態の際には間に合わなくなってしまう可能性もあります。このスマートダッシュボードの開発により、日々の業務に必要なデータや、異常時の対応マニュアルなどの情報を効率的に引き出せるようになればと思っています。
PoC(概念実証)としての開発
Fusic吉田)今回はPoC(概念実証)版として、まずは現場のお客様に試用していただき、今後ブラッシュアップしていくためのプロトタイプを開発いたしました。PoC版の機能は大きく2つに分かれています。新川電機さまの振動解析・診断システム『infiSYS』のデータをもとに機器の異常箇所を画面上で確認できるダッシュボード、そして生成AIのRAG(Retrieval-Augmented Generation)を活用したチャットボットです。チャットボットには、社内ドキュメントを読み込ませることで、機器の異常についての質問に回答してもらうことができます。
Fusic苑田)技術選定においても、PoC版であることを意識しました。例えば、一般的にAWSのサービスでRAGを開発する場合にはKendraが採用されることが多いのですが、今回は低コストな開発のためにPineconeを採用しています。また、今後利用者が増え、システムの横展開が進むことを想定し、AWS CDK(Cloud Development Kit)とCDK Pipelineを活用したマルチアカウントデプロイの仕組みを構築しました。これにより、新たな環境の構築や展開を迅速かつ低コストで行えるようにしています。
伊藤 祐治 様)スマートダッシュボードは新しいサービスとなるため、私たちが一方的に機能や形を考えてしまうのではなく、お客様の声を聞きながら本当に使われるサービスに育てていきたいと思っています。そのための取り組みとして、このPoC版を様々なお客様に使っていただいて、ご意見をもらっていきたいですね。プレゼン資料や画面イメージだけではなく、実際に操作してもらうことで得られるフィードバックは貴重です。
RAG(Retrieval-Augmented Generation)の活用
伊藤 祐治 様)社内ドキュメントをデータソースとしたRAG(Retrieval-Augmented Generation)を開発するにあたって重要なのは、データの優先度を設定していくことだと思っています。そのデータは全文をテキストにしておく必要があるのか、それともスキャンしたPDFや図面のファイル名だけで十分なのか、これらの点を考慮して取り込み方法を検討しています。最初からすべてを完璧に整えようとすると導入・運用に時間がかかってしまいます。トータルで見たときに最も効率のよい形を目指しています。
伊藤 誠 様)PoC版のチャットボットを、お客様や自社内で試してみてもらったところ、当初想定していた設備の保全を担当する部署はもちろん、それ以外の様々な部署からも非常に好評をいただいています。自社の他拠点でもぜひ使いたいとの声が上がり、社内検証も進んでいます。社内のドキュメントをうまく活用できていないという課題は、あらゆる業態や部署で共通しているようです。また、情報共有における部署間の壁を取り払う手段としても、社内ドキュメントを活用したRAGは有効だと思います。隣の部署に聞きにいくことにハードルを感じていても、RAGでのチャット形式なら気軽に質問ができるようです。
伊藤 祐治 様)単なる全文検索ではないというのもRAG(Retrieval-Augmented Generation)の魅力ですね。特定のキーワードがわからない状況でも、必要な情報にたどり着けるというのはやはりAIならではだと思います。
Fusicへの印象、期待
西岡 厚佑 様)Fusicさんと一緒にプロジェクトを進めていて1番感じるのは、本当に楽しそうに開発をしているな、ということです。技術的に難しいところがあっても、何とか実現してみせると、熱心かつ献身的に取り組んでくださるのは本当に心強いです。
Fusic苑田)RAGやAIは、私個人としても追求していた技術なので、こうしてプロジェクトとして取り組む機会があることを嬉しく思います。社会の役に立つサービスとして良いものをご一緒に作っていきたいです。
今後の展望
秋山 弘樹 様)ビジネスの視点での構想としては、スマートダッシュボードのPoC版をもとにしたブラッシュアップの過程で、お客様をより理解したいと考えています。発電所やガス工場の操業や整備において、日頃どのようなお困りごとがあり、私たちに何ができるのか、より深くお客様と結びつきを築いていきたいです。
伊藤 祐治 様)スマートダッシュボードについては、現在のPoC版をFusicさんと一緒に発展させていきたいです。その際に意識したいのは、本当に価値ある情報や機能を選び出すことです。すべての要求に応えると複雑なものになり、使われないシステムになってしまいます。
私たちのソリューションである振動解析は、発電所やガス工場の操業におけるあらゆるデータを整理した上で、本当の意味での活用が実現すると思っています。お客様が持つ情報を繋げたプラットフォームを、このスマートダッシュボードで可視化し、日々の業務に活用いただくことで、社内の情報が資産となる世界を実現していきたいです。